【コラム】相手の山札を0枚にする、そのデッキを何と呼ぶか
ポケモンカードゲームでは、「自分の番の最初に山札が引けない」という状況の発生が敗北条件として定められています。
この敗北条件を相手に押し付ける戦法は古くから存在し、様々な名前で呼ばれてきました。
山焼き、山削り、デッキ破壊、LO等。
今回は、そういった戦法を取る「デッキの名前」にフォーカスし、その変遷とその背景にあるものについて考察してみます。
全員集合!
この話をしようと思ったワケ
去る2019年9月22日に行われた、チャンピオンズリーグ2020東京大会。
そのエクストラレギュレーション部門の対戦レポートの数々に、「アイアントLO」というデッキの名前が散見されることに気が付きました。
「アイアントLO」は、アイアント(BW2)のワザ「くいあらす」で相手の山札を0枚にして勝利することをコンセプトとしたデッキです。
こちらがそのアイアントさん。
山札をトラッシュさせる強力なワザを持っています。
このアイアントが収録されていたのが、2011年7月6日発売の「レッドコレクション」。
当時、アイアントのデッキは単に「アイアント」と呼ばれていました。
今、「アイアント」デッキは「アイアントLO」と呼ばれています。
何故なのか。
レッツ考察。
炎デッキ中心の「山焼き」(1998~)
初期のポケモンカードで山札のトラッシュを得意としていたのは炎ポケモン達。
山札切れ狙いをコンセプトとしたデッキは自然と炎タイプに偏り、それらのデッキは「山焼き」と呼ばれました。
「山焼き」と同世代の用語としては、MTGを発祥として遊戯王OCGの「死のデッキ破壊ウイルス」等を経由したと思われる「デッキ破壊」というものもあります。
こちらも今尚使われている表現です。
山焼きファイヤー(第3弾)
「相手の山札をトラッシュする」効果を持つ最初のカードは、「ファイヤー(第3弾)」。
山札を「山」に、トラッシュする効果を「焼く」行為に例えた、「やまやき」という名前のワザが与えられています。
そんなファイヤーがメインのデッキは「山焼きファイヤー」、または単に「山焼き」と呼ばれました。
「ゴットバード」で攻撃するコンセプトとの区別の意味合いが強いと考えてよいでしょう。
それほど強力なアーキタイプとはなりませんでしたが、特殊なコンセプトでそれなりに知られてはいました。
炎タイプのポケモンで相手の山札をトラッシュするデッキはその後もしばしば登場し、「山焼き」の名を冠して呼ばれます。
「山焼きブーバーン(L3)」、「山焼きヘルガー(XY8)」等。
山焼きコータス(ADVex)
山焼きデッキで最前線に一番乗りしたと言ってよいのが、「マグマ団のコータス(ADVex)」です。
豊富な妨害手段を絡めつつ、エネルギー効率のよい「マグマやき」で相手の山札をトラッシュし続けます。
特にハーフデッキでは公式大会レベルでも無視できない程度の使用者がいました。
デッキの名称は「山焼きファイヤー」の流れを汲んだ「山焼きコータス」が主流となりました。
「マグマ焼きコータス」とは呼ばれていなかったように記憶しています。
山札切れの象徴となった「ポケモンの名前」(2006~)
中期のポケモンカードでは闘タイプや鋼タイプのポケモンに山札トラッシュの能力が与えられ、しかも強力なアーキタイプの主軸として活躍するケースが出てきました。
炎ポケモンの戦法とは自然に区別され、「山焼き」ではなく「山削り」と呼ばれることが比較的多かったように思います。
それらのポケモンは「山削り」をコンセプトにデザインされていることがある程度明確で、ポケモンの名前がそのままデッキのコンセプトの象徴となりました。
ドサイ(DP1~)
ついに山札トラッシュでトップメタとなったのが、ドサイドン(DP1)。
「じわり」によってワザを使うことなく相手の山札を一気に3枚もトラッシュさせることができます。
原則としてドサイドン自身がワザを使わないのが大きな特徴。
その他のデッキとコンセプトが大きく異なるため対処が難しく、ハーフデッキ環境では猛威を振るいました。
ドサイドンのデッキは仮想敵として頻繁に話題に上り、略して「ドサイ」と呼ばれました。
カードプールの変遷と共に、「ハギドサイ」「じわり」「No FIghting」「無闘」「アブドサイ」「バンギドサイ」「時空ドサイ」等様々なアーキタイプや呼び名が生まれました。
アイアント(BW2~)
パワーとパワーがぶつかり合うBW環境に突如現れた「アイアント(BW2)」。
ワザ「くいあらす」で、なんと毎ターン4枚ずつ相手の山札をトラッシュします。
非力なアイアントを様々な手段で守ったりトラッシュから復活させたりしながら粘り強く戦うのもポイント。
アイアントのデッキはアイアントのみ、場合によってごく少数のポケモンとの組み合わせで構築されました。
「アイアント」「アイアント単」「アイアント○○(ミュウツー等)」と呼ばれました。
ワザで与えられるダメージが少ないためサイドカードを取りにいくプランが現実的に存在せず、「ドサイ」同様に単に「アイアント」と呼ばれることが殆どでした。
当時のイベントレポート記事等を漁ってみても専ら「アイアント」と記されています。
公式大会の初入賞は、現状確認している範囲で2011年11月6日の「バトルカーニバル2011大阪会場」。
メタゲームの変遷に伴って徐々に姿を消していきましたが、しばらくは目の上のたんこぶでした。
高耐久のポケモン達による「LO」(2015~)
「LO」は「Library Out(ライブラリーアウト)」の略です。
ざっくり言うと、山札を引くことができないことにより発生する敗北条件のことを指します。
それを利用した勝利を目指すコンセプト、及びそれを取り入れたデッキの名称としても使われます。
元々は、TCGの元祖である「マジック:ザ・ギャザリング(Magic: The Gathering)」、通称「MTG」の用語でした。
そして、そもそもの「Library」自体がMTG用語です。
MTGでは山札に「書庫」や「図書館」のイメージをもって「ライブラリー」という用語を割り当てています。
一方、ポケモンカードの山札には、「山札」、英語では「Deck」と いう言葉が割り当てられています。
そのため、厳密に言うと「LO」という用語はポケモンカードには相応しくありません。
でもそんな細かいことはいちいち気にせんでええでしょう。
便利なものは何でも使ったったらええんです。
ちなみにですが、僕は細かいことを気にするタイプなので、「LO」という言葉を聴くたびに奥歯が少しずつ磨り減ります。
さて、近年のポケモンカードのカードプールには、「ポケモンGX」等のこれまで考えられなかったような高いHPを持つポケモンと、「アセロラ」のような豊富な回復手段が同時に存在しています。
これらを生かし、持久戦を仕掛けながら相手の山札切れを待つ受動的なデッキが次々と台頭してきました。
「山札切れ」という特殊勝利をメインコンセプトに据えるデッキがこんなにも勢力を伸ばしているのは、歴史的に見るとかなりの異常事態です。
これまでの山札切れデッキの多くはカードのテキストによって能動的かつ直接的に相手の山札をトラッシュするのが主な動きでしたが、新しい山札切れデッキはカードのテキストを生かして山札切れを待つのが主な動きとなっており、そのコンセプトの方向性は大きく異なります。
戦法の受動的な性質を表現する場合、これまでに使われていた「焼く」「削る」といった他動詞は相応しくないと言えるでしょう。
つまり、「LO」という言葉はまさにこの時代に求められている言葉なのです。
「LO」という言葉がかなり昔から存在していたにも関わらずポケモンカード文化圏に定着していなかったのはその証左であると僕は声を大にしたい。
大にしたい、はちょっと言い過ぎかな。
中より少し大きめにしたい。
※ラッキー(第1弾)等の高いHPを利用した山札切れデッキもあるにはあったのですが、あまりにもマイナーなためここでは省略します。
ホエルオーLO(XY5~)
ついにその本領を発揮した不沈艦、「ホエルオーEX(XY5)」、「ホエルオー(SM7)。
メインのカードは異なりますが、基本的な動きは大体同じなので便宜上なかよく十把一絡げにします。
規格外なHPで相手のワザを受け止めて、豊富な回復手段で受け流し、相手の山札が切れるのを待つホエルオーデッキは「ホエルオーLO」と呼ばれました。
これらが登場した2015年辺りから、山札切れを狙う戦略が「LO」と呼ばれ始めます。
それはこの「ホエルオーLO」というアーキタイプの登場がきっかけだった、と見てよいのではないでしょうか。
「山札をトラッシュする」というテキストを持っていないホエルオー。
デッキ名だけでコンセプトが伝わる「LO」という表現はお誂え向きでした。
有名な構築としては、2017年のフランクフルトリージョナルでSander Wojcik選手が使用した「Wailord」を是非知っておいて欲しいところ。
ニンフィアLO(XY1+)
最高にプレイングの難解なLOデッキを生み出した「ニンフィアGX(SM1+)」。
ニンフィアGXで山札切れを狙うデッキは「ニンフィアLO」と呼ばれ、大きな話題となりました。
ニンフィアGX自身は「山札をトラッシュする」テキストを持っていませんが、ワザによる3枚同時のサーチがとにかく強力で、コントロール性能に長けています。
ポケモンカード文化圏にMTG用語由来の「LO」が浸透したのはニンフィアGXの仕業と言っても過言ではありません。
ニンフィアLOについては、ポケカメモさんで余りにも詳細な特集が組まれているので、そちらをどうぞ。
メルカリLO(SM9B)
史上最もデカくてカタいLOデッキ、その中核となった「ルカリオ&メルメタルGX(SM9b)」、通称「メルカリ」 。
260ものHPでひたすら攻撃を受け流す「メルカリLO」は、「メルカリHAND」と共にメルカリの主要アーキタイプとなりました。
得意とする持久戦法の中でもどのようなコンセプトを目指しているかを明確にする意味でも、「LO」という用語がうまく機能しています。
CL2019千葉で決勝を戦ったかわさきたかふみ選手の「メルカリHAND」は、未だ記憶に新しいことでしょう。
特性「HAND」と相手の山札切れの2種類の勝利条件を現実的なコンセプトとして成立させている、歴史上でも特異なデッキです。
アイアントLO(2019)
CL2020東京エクストラリーグに湧いて出た「アイアント(BW2)」。
説明は先述のもので十分かと思いますので、ここでは省略します。
さて、初期のアイアントデッキは単に「アイアント」と呼ばれていましたが、近年のアイアントデッキは「アイアントLO」と呼ばれています。
「相手の山札を0枚にする」というコンセプトの基本が変わっていないにも関わらず。
そこには、直近のLO系アーキタイプとして「ホエルオーLO」「ニンフィアLO」「メルカリLO」の影響が色濃く出ています。
それらのアーキタイプの受動的な「山切れ待ち」を表す用途で定着した「LO」という言葉が、能動的な「山削り」の意味を内包していることを明らかにし始めたのです。
この「言葉のゆらぎ」は、ポケカ言語学(大袈裟)の観点からすると非常に興味深い現象です。
ファイヤーLO(SM9)
そして「やまやき」と共に蘇った「ファイヤー(SM9)」。
「山焼き」戦法の復活です。
しかし、このファイヤーを主軸に据えたデッキは「山焼きファイヤー」だけでなく、「ファイヤーLO」とも呼ばれています。
驚くべきことに、「山焼きLO」という例もありました。
ついに「LO」が「山焼き」の言葉の領分を脅かし始めているのです。
そう、まさに野火が燃え広がるように。
興奮してきた。
鼻血出そう。
次は、その次はどうなるんだ。
教えてくれ。
しかし。
それはまだ誰にもわからないのです。
未来はどっちだ。
「山焼きLO」。
一部の世代には衝撃的な表現です。
まとめ
「相手の山札を0枚にする」デッキ、そのデッキは何と呼ばれたか。
1.相手の山札をトラッシュするのは炎ポケモンの戦法だったので、「山焼き」と呼ばれた。
2.山札切れを狙う強いポケモンが出てきたので、「ポケモンの名前」で呼ばれた。
3.間接的に山札切れを狙えるポケモンが出てきたので、「LO」と呼ばれた。
4.山札切れを狙うデッキはなんでもかんでも「LO」と呼ばれるようになってきている。
ここに書いたことは全て僕なにものかの主観に基づいた考察です。
異論反論、大いに歓迎です。
でもやさしくしてください。
以上、ご精読ありがとうございました。