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なにものかとポケモンのブログ。(Pokemon blog by nanimonoka)

【コラム】ポケモンカードを剥がして捨てた子供たち

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ポケモンカード第1弾のカード「エネルギー・リムーブ」のテキストは、次のように書かれています。

相手のポケモンについているエネルギーカードを1枚はがしてすてる。

 

注目してほしいのは、この「はがしてすてる」という表現。

「はがす」や「すてる」が慣用的表現として定着していることもあり、今のプレイヤーにはさほど難なく理解できるでしょう。

重ねられているカードを選択し、それをトラッシュに置く。

これが「はがしてすてる」の正しい処理手順です。

 

しかし、ポケモンカード発売当初はこの「はがしてすてる」を誤解した子供たちが少なからず存在しました。

そして彼らは、「カードの合紙を物理的に剥離させ、廃棄する」という驚くべき手順で処理したのです。

カードをベリベリッと剥がしてゴミ箱にポイッ。

 

んなわけあるかよ、と思うでしょう。

んなわけあったんです。

マジで。

 

今回はこの「はがしてすてる」というテキストに纏わるエピソードの考察です。

ポケカ言語学シリーズ、読んでください。

お願いします。

マジで。

 

物理的に剥がして捨てた子供たちのエピソード

僕がポケモンカードの対戦を始めたのは小学校5年生のとき。

「カードをベリベリッと剥がしてゴミ箱にポイッ」は流石にしませんでした。

僕は天才少年でしたのでね。

 

しかし、「はがしてすてる」の意味がすぐに理解できず、物理的に剥がして捨てる可能性が頭に浮かんでいたのは事実です。

僕は天才少年ではなかったので、中学校からは早速落ちこぼれました。

そしてその中学校で、物理的に剥がして捨てたことがあるという同級生の話を聞いたときは驚きました。

更に、インターネットやイベント等で他の地方のプレイヤーと交流を持つようになって、同じような人が他にも沢山いることを知ってますます驚くばかりでした。

 

こういった体験談は、今でも「はがしてすてる」をちょっと検索するだけでホイホイ出てきます。

ここでその例を一つ紹介するとしましょう。

ポケモンカード公式ホームページに掲載されている「プレイヤー名鑑」。

komaことコマツダユウタ選手が次のような証言をしています。

あの頃は、いまとカードのテキストが違うところがありまして、例えばエネルギーを“トラッシュする”というテキストが、“はがして捨てる”と書かれていました。

純粋に受け取ってしまったのでしょうね。本当にそうなっているエネルギーカードを見かけてビックリしたことがあります(笑)。

コマツダユウタ - プレイヤー名鑑 | ポケモンカードゲーム公式ホームページ

 

公式ホームページでの元世界チャンピオンの発言、この上なく信頼できるエピソードです。

お分かりいただけるでしょうか。

この話、マジなんです。

 

あっ、公式ホームページの編集担当の方!

「はがして捨てる」じゃなくて「はがしてすてる」ですからね!

ひらがな表記!

そこんとこ、よろしく!

 

物理的に剥がして捨てるに至る思考フロー

ここから、どうして子供たちがカードを物理的に剥がして捨ててしまったのかを考察してみます。

 

例としては引き続き「エネルギー・リムーブ」を取り上げます。

テキストをもう一度引用します。

相手のポケモンについているエネルギーカードを1枚はがしてすてる。

 

前提条件として、当時の子供たちが置かれていた環境のことを考慮する必要があります。

ポケモンカードゲームは、そしてトレーディングカードゲームは、子供たちにとっての初めての遊びです。

教えてくれるような大人はいないし、自分で調べられるスマホやパソコンはおろか、本もありません。

唯一頼りにできるのがルールブック(遊びかた説明書)。

さあどうする。

 

1.「はがす」が理解できない

「はがす」の正しい解釈は「重ねてあるカードを取り除く」です。

 

しかし、遊びかた説明書の第1版に「はがす」という単語は一度も登場しません。

「用語集」という章が設けられていますが、そこにももちろん登場しません。

「はがす」という言葉は、ルールでは定義されていないのです。

言い換えれば、「はがす」という言葉はゲーム外の一般的な感覚に即して理解されることを期待されています。

 

ちなみに、エネルギーカードについては「つける」 ものであるということが説明されています。

一般的な感覚で言えば、「つける」の対義語は「とる」、「はがす」の対義語は「はる」でしょう。

この点からも、遊びかた説明書から「はがす」の正しい解釈に辿り着くことは難しかったと言えます。

特に子供たちにとっては。

 

次に、対戦中のカードの視覚的な状況について考えてみます。

「相手のポケモンについているエネルギーカード」という文章が指すのは、相手の場にポケモンのカードが1枚置いてあって、そこから少しずれた位置に重なって置かれているエネルギーカードです。


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 (1996.10.20『ルールブック第1版』p.14, 株式会社メディアファクトリー

 

このエネルギーカードを「すてる」ために動かす場合、どのような言葉で描写すべきでしょうか。

「とりのぞく」「どける」等色々な候補があるかと思いますが、「はがす」はすぐには出てこないでしょう。

例を挙げると、件の遊びかた説明書では退化の処理に関して「進化カードをとって退化する」と説明されています。

あれ、エネルギーカードも「とる」にしとけばよかったのでは……。

 

これは僕の主観ですが、「はがす」は薄い物体が比較的密着した状態にあって、垂直方向に力を加えて取り除かれる場合に専ら使われる言葉ではないかと思います。

ゲーム中の視覚的な情報に即して「はがす」を正しく解釈するのもやはり難しいと言えるでしょう。

 

「はがす」に対する誤解の根底には、書き手であるゲームデザイナーと読み手であるプレイヤーの持つ感覚のギャップがあったのです。

しかし、少なくとも「はがす」に関しては、これは必ずしもゲームデザイナー側の落ち度とは言えないのではないかと考えます。

次の項目で述べます。

 

2.「はがす」を誤解する

カードを物理的に「はがす」、一般的には突飛な発想かもしれません。

しかし、子供の想像力は大人のそれを超えているものだし、舐めてもらっちゃあ困ります。

ポケモンカードを横から見てみると、確かにうっすらと層があるのがわかります。

剥がせそうな気がしてきませんか。

子供はそういう気がしてくるものなんです。

カードを「切る」だって、ハサミでチョキチョキするものかもしれないと思っちゃうんです。

実際のところ、トランプの束を「切って」と言われたとき、僕は大混乱しました。

「よく混ぜること」だというのは、教えてもらって初めて理解しました。

「回して」と言われたときもわかりませんでした。

そのまま紙の束を両手で水平にくるくる回転させて、「ふざけないで」と怒られました。

「自分の分を取って隣に渡す」という意味でした。

「剥がして」って言われたら、そりゃあベリベリッと剥がすものだと思うでしょう。

言葉の多義性は子供の手には負えないものなんです。

 

そして、「はがす」が物理的な処理であるという発想を補強していたと思しきアイテムも存在します。

当時の小学生男子の間で大流行していたトレーディングカード、「カードダス」です。

様々なキャラクターのものが存在しましたが、とりわけ人気だったのは「ドラゴンボール」シリーズでしょうか。

 

sec.carddass.com

 

「カードダス」のカードの中には「隠れプリズム」という特殊な仕様のカードがありました。

どういうものかというと、コモンカードだと思ってたけどよく見たらシールが貼ってあって剥がしたらレアカードだったうわーやったー、というカードです。

「カードダス」専門サイトの説明文を下記に引用します。

隠れプリズム


一見ノーマルカードのように見えるが2枚重ねになっており、めくると下にプリズムが隠れているという構造のカード。

 

カードダス用語集|カードダス買取・販売店ヴィントコレクト

 

この「カードダス」の影響によって、物理的にカードを剥がすというスキーマは当時の子供たちの間ではある程度普遍的なものとなっていたのです。

これは自分の仮説に過ぎませんが、この「隠れプリズム」が「はがす」の誤解に一役買った可能性は大きいのではないかと思います。

 

3.「すてる」が理解できない

「すてる」の正しい処理は「トラッシュに置く」です。

 

「すてる」という言葉は、遊びかた説明書に少しだけ登場します。

「にげる」の補足として「(捨て札置き場)に捨てて」「トラッシュに捨てます」という説明が。

「きぜつ」の補足として「トラッシュに捨てる」という説明が。

 

また、「パソコン通信」や「オーキドはかせ」等「すてる」というテキストを含むカードは他にも存在します。

「すてる」が「トラッシュに置く」を意味するものであることは、ある程度類推可能です。

 

しかし、これが「はがしてすてる」となった場合は話が別です。

「はがして」の不明確さが「すてる」の解釈を白紙状態にしてしまうのです。

 

4.「すてる」を誤解する

カードを物理的に「すてる」のも一見短絡的な発想です。

しかし子供たちにとって「すてる」は「廃棄」です。

「すてる」の目的語として「トラッシュ」が隠れていることに気付かない限り。

 

当時の小学生の間で流行っていたホビーは、「廃棄」すべき消耗品の発生するものがいくらか存在しました。

ミニ四駆のタイヤやハイパーヨーヨーのストリング等。

エネルギーカードがこれらと同じ消耗品としての扱いを受けた、と考えることもできるでしょう。

 

また、「廃棄」には「所有権の喪失」も含まれます。

当時の小学生男子の間では「バトルえんぴつ」が流行しており、その所有権を賭けて勝負を行うルールが一部で生きていました。

少し前の世代の「ベーゴマ」や「メンコ」から受け継がれた文化です。

エネルギーカードがゲームのルールの一環で所有権を失うものとして扱われた可能性もあります。

 

強引にまとめ

色々考察してみましたが、正味な話ようわかりません。

なんせ子供の考えたことですからね。

 

「はがして」って言われたらベリベリッとする以外のことが思いつかなかったし、ベリベリッとしてしまったら、それはもう「すてる」しかなかった。

それだけのことです。

 

その後の「はがしてすてる」

こういった誤解に配慮してか、「はがしてすてる」という効果の説明は以降の拡張パックで改善が試みられます。

 

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まずこちらが「エネルギー・リムーブ」の同期である「ハクリュウ(第1弾)」。

はかいこうせん」のテキストは下記。

相手の対戦ポケモンのエネルギーカードを1枚はがしてすてる。

 

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こちらが「ゴルダック(第3弾)」。

「トラッシュ」が明記されるようになった「はかいこうせん」のテキストは下記。

相手の対戦ポケモンについているエネルギーカードを1枚選び、それをはがして相手のトラッシュにすてる。 

 

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こちらが「わるいゴルダック(第4弾)」。

「はがして」がなくなった「だい3のめ」のテキストは下記。

このカードについているエネルギーカードを1枚選び、トラッシュする。

 

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そして調整版「エネルギー・リムーブ」であるところの「クラッシュハンマー」がこちら。

テキストは下記。

コインを1回投げオモテなら、相手の場のポケモンについているエネルギーを、1個トラッシュする。

 

初の国産TCGとして開発されたポケモンカード、そのテキストは初期のゲームデザイナーの皆様が手探りで書き上げたものでした。

相変わらずわかりにくいと言われがちなポケモンカードのテキストですが、こうして徐々に改善されていたりもするんですね。

その発展が、破り捨てられていった沢山のエネルギーカード達の犠牲の上に成り立っていることを忘れてはならないのです。

合掌。