【コラム】ズガドーンが小ズガになったワケ
ワザ「ひのたまサーカス」の無限のダメージで、ポケモンGXも、ポケモンVも、ポケモンVMAXでさえも焼き払ってしまう、ごく普通のポケモン「ズガドーン」。
「小ズガ」と呼ばれ、今最もホットなポケモン、ホットなアーキタイプとなっています。
ところでこの「小ズガ」。
なぜこのように呼ばれているのか疑問に思ったことはありませんか。
単に「ズガドーンGX」との区別のため、であるならば「ズガドーンGX」の方を「ズガエク」とか「大ズガ」と呼んでおけば済むはず。
なぜなのか。
今回はこの「小〇〇」という対比的呼称が成立するまでの歴史的背景についてお話します。
「小ズガ」なのか「子ズガ」なのか、そんな疑問もついでに解決。
CL2021横浜の開幕を控えた今、どこよりも役に立たない小ズガ考察。
ズガドーンとズガドーンGXの比較
「ズガドーン(SM10)」と「ズガドーンGX(SM8)」は同じ「ズガドーン」というポケモンをモチーフにデザインされたカードです。
ちょっと並べて比べてみましょう。
主な共通点は、同じ「ズガドーン」という名前を持ち、アタッカーを担っていること。
相違点としては、HPの高さ、きぜつに伴って取られるサイド、GXワザの有無等でしょうか。
この2枚はいずれも実戦級の性能を持ち、頻繁に話題に上るため、それなりに簡略化された呼称が必要になってきます。
しかしながら、同時期のカードプールに、同時期のメタゲームに、しばしば同じデッキ内で共存するため、同じ文脈上での混同を防ぐための区別も不可欠です。
そういった背景から、「小ズガ」という対比的呼称が生まれたのはある意味自然の摂理とも言えるでしょう。
ちなみに、「ズガドーン(SM11a)」というカードもいますが、今回の文脈では先の2枚と並列に語るカードではないので、今回は彼の話はしません。
すまない。
通常のポケモンと特別なポケモン、変遷するその対比的呼称
ズガドーンとズガドーンGXのように、同じポケモンのカードにはしばしば対比的呼称が与えられます。
そのバリエーションと代表例、その変遷や背景にあるものを時系列に沿って紹介します。
大型の特別なポケモンの種類
ポケモンカードゲームには、通常のポケモンと区別された「特別なポケモン」がいくつか存在します。
特に、高いHPや強い効果を持つワザ等と引き換えに、倒されるとサイドを2枚取られるというリスクを持つ大型の特別なポケモンは、シリーズを超えて継続的に登場してきました。
最も古いものは「ポケモンカードゲーム ADV」(2003年1月31日~)の「ポケモンex(エクストラ)」。
次いで「ポケモンカードゲーム BW」(2010年9月18日~)の「ポケモンEX(イーエックス)」。
そして「ポケモンカードゲーム サン&ムーン」(2016年12月9日~)の「ポケモンGX(ジーエックス)」。
最後に「ポケモンカードゲーム ソード&シールド」(2019年12月9日~)「ポケモンV(ブイ)」。
ゲーム展開にメリハリをつけるシステムとして定番となった感があります。
ポケモンex:サーナイトとサーナイトexの例
2003年発売の「ADV」シリーズで、初の大型ポケモン「ポケモンex」が登場。
「ポケモンex」とそうでないポケモンの組み合わせとして、最も初期に環境入りしたのがこの「サーナイト(ADV1)」「サーナイトex(ADV2)」です。
ズガドーン達と違ってこちらは進化ポケモンですが、最初期の対比的呼称の例として紹介しない訳にはいかないと思っています。
「ポケモンex」には「ポケモンエクストラ」という読み方が設定されています。
「エクストラ」には「特別」という意味合いがあります。
ポケモンexは文字通り特別なポケモンとしてデザインされ、特別なポケモンであるという共通認識でもってプレイヤー達に受け入れられました。
そういった背景から、この時代では通常のポケモンと「ポケモンex」を比較する文脈では、専ら「サーナイトex(サーナイトエクストラ)」が単純な略称「サナex(サナエク)」と呼ばれました。
「サーナイト」の方もそのまま略称で「サナ」、どうしても「サーナイトex」を基準にしたい場合は「普通サナ」「通常サナ」等と呼ばれました。
使用例として、3世代ポケカの生き字引である寒天さんのブログを引用します。
バトル場にサナex、ベンチにサナex、普通サナ、コロロ2体、レアコ1体になるのを目指して展開していきます。
(ADV、PCGシリーズ中心のポケカブログ,"【e1-ADV3(ADV4)】サナレアコロロのデッキレシピと解説", 2020.10.2.AM3:42確認)
同様に、この時期の通常のポケモンと「ポケモンex」は多くが「〇〇」「○○エク」と呼び分けられました。
いくつか例を挙げてみます。
余談ですが、今も残る「非エク」という呼び方は「ポケモンex」の時代に成立したものです。
この「エク」は「EX」「GX」の「X(エックス)」が由来だと思われがちですが、語源としては「ex(エクストラ)」が先。
「非エク」は「非ポケモンエクストラ」の略です。
ここテストに出します。
そういうテストを作りたい。
ポケモンEX:ゼクロムとゼクロムEXの例
「ポケモンex」が姿を消してから約3年、2010年発売の「BW」シリーズで「ポケモンEX」が登場。
最初に活躍した組み合わせは、この「ゼクロム(BW1)」と「ゼクロムEX(BKZ)」。
同一のデッキにアタッカーとして共存していた同じポケモンのカード、というズガドーン達とほとんど同じ条件でです。
「BW」シリーズで登場した「ポケモンEX」には「ポケモンイーエックス」という読み方が設定されています。
「ポケモンEX(イーエックス)」は「ポケモンex(エクストラ)」の明確なリメイクであり、「エク」という略称もユーザーコミュニティの間で受け継がれました。
そういった経緯で、この時期の通常のポケモンと「ポケモンEX」の対比的呼称は「ポケモンex」の時代からあまり変化がありませんでした。
「ゼクロム」が「ゼク」、「ゼクロムEX」が「ゼクEX(ゼクエク)」です。
同様の関係性のポケモンの組み合わせは、いくつかの例があります。
この時期は同じポケモンの所謂エクと非エクの同時採用率が低く、ややマイナーです。
- 「トルネロス(BW1)」「トルネロスEX(BW3)」→「トルネ」「トルエク」
- 「レックウザ(DS)」「レックウザEX(BW5)」→「レック」「レックエク」
- 「テラキオン(BW2)」「テラキオンEX(BW5)」→「テラキ」「テラキエク」
ポケモンEX:イベルタルとイベルタルEXの例
「BW」シリーズのシステムをほぼそのまま受け継いだ、2013年発売の「XY」シリーズ。
XYシリーズ初期の通常のポケモンとポケモンEXのコンビと言えば「イベルタル(Y30)」「イベルタルEX(XY1)」。
「ポケモンEX」というポケモンの種類は「BW」シリーズから存在していました。
通常のポケモンと「ポケモンEX」の呼称もBWシリーズから変わらない、と思いきや、ここで新しい現象が観測されます。
「小さいイベルタル」で検索をかけると、当時のブログやツイッターにわずかにその痕跡を見ることができます。
あと1体たったらまず勝てなかったけど2体までならゲームできるので後手1でアーケ立ててアブソルと小さいイベルタルでやり合う構え。
(かざまつりの日記,"ひと目で尋常じゃないぶるぶるだと見抜いたよ", 2020.10.2.AM4:39確認)
やがてこの「小さいイベルタル」は「小さいイベ」「小イベルタル」等と短く省略され、「小イベ」で落ち着きました。
「小ズガ」の源流はこの「小イベ」にあり、というわけです。
この一連の興味深い現象は、概ね下記のような流れで発生しています。
- 2013年12月13日、拡張パック「コレクションY」の発売により「イベルタルEX」がリリースされる。
- 「イベルタルEX」を軸としたアーキタイプ「イベダーク」が成立する。
- 「イベルタルEX」に「イベ」という略称が定着する。
- 2014年1月31日、「イベルタルデッキ30」の発売により「イベルタル」がリリースされる。
- 「イベルタルEX」を軸としたアーキタイプ「イベダーク」に「イベルタル」が採用される。
- 「イベルタル」に「小さいイベルタル」という呼称が定着する。
- 「小さいイベルタル」が省略され「小イベ」という呼称が成立する。
つまりどういうことかと言うと。
「イベ」という略称が先発の「イベルタルEX」のものとして定着していたため、後発の「イベルタル」の通称として「小イベ」が発生したのです。
さらに、当時としては珍しく「イベルタルEX」が新ポケモンの1枚目のカードでありながら特別なポケモン「ポケモンEX」のカテゴリでリリースされたこと。
そして、その約2か月後、後発の「イベルタル」が先発の「イベルタルEX」が競技環境から淘汰される前にリリースされたこと。
こういった条件も、当時としてはかなり珍しいものでした。
というか、先例が思いつかない。
ちなみに、同期の「ゼルネアス(X30)」と「ゼルネアスEX(XY1)」が「小ゼルネ」「ゼルネ」と呼ばれることはまずありませんでした。
悲しき性能差です。
ちなみに、この段階では「子イベ」という表記、あるいは「イベルタルEX」を指す「大イベ」「親イベ」という呼称はほぼ見かけませんでした。
従って、歴史的に見れば「小イベ」の方が正統と言ってよいかと思います。
「子供のように小さな」という解釈も可能なので、「子イベ」でも意味合いとして間違っているわけではないです。
この「小イベ」登場以降、「小〇〇」という呼称は大型の特別なポケモンに対する通常のポケモンの呼称として浸透し、代々受け継がれていくこととなります。
主にたねポケモン同士で、「ポケモンEX」「ポケモンGX」が先行して定着した場合に適用されるケースが多いです。
例をいくつか挙げてみましょう。
- 「レックウザ(DS)」「レックウザEX(BW5)」→「小レック」「レック」
- 「ボルケニオン(XY11)」「ボルケニオンEX(XY11)」→「小ボルケ」「ボルケ」
- 「マッシブーン(SM8b)」「マッシブーンGX(SM8b)」→「小マッシ」「マッシ」
- 「カプ・テテフ(SM2+)」「カプ・テテフGX(SM2L)」→「小テテフ」「テテフ」
- 「ズガドーン(SM10)」「ズガドーンGX(SM8)」→「小ズガ」「ズガ」
ポケモンEX:レックウザとレックウザEXの例
ここで少し寄り道をします。
本稿をここまでしっかり読み込んだ人は、「レックウザ(DS)」「レックウザEX(BW5)」が、例として2回出てきていることに気付くかと思います。
実ははこのレックウザ達、「小イベ」登場前後に渡る長期間のメタゲームで存在感を発揮し、呼称のトレンドが変わっていったポケモンなのです。
2種類のレックウザは主に「レックビール」「シビレック」と呼ばれるアーキタイプで活躍しました。
「レックウザEX」の方は時期を問わずコンスタントに3枚ほど採用されましたが、「レックウザ」の方は時期によってやや異なる役割で1枚採用されたりされなかったりしました。
初期の構築では、多発するミラーマッチに備えて。
「小イベ」以前のこの時期は主に「レック」「レックEX(レックエク)」と呼ばれました。
後期の構築では、メタカードである「カエンジシ(BW2)」へのメタのメタとして。
「小イベ」以降はその影響を受けて、「小レック」「レック」と呼ばれるようになりました。
BW期、BPG(琵琶湖ポケカジム)初期の常連としてその名を知られたダニエルさんのブログから初期の使用例を一つ。
あくまで今回は「レックEXのデッキに採用されているレックとゼク」としての観点で。
(はぐれブログ NewStage,"ブレス オブ ファイア V ドラゴンクォーター", 2020.10.2.AM4:52確認)
関大ポケモンサークルのガンキンさんの記事から後期の使用例を一つ。
ジジーロンや小レック(呼び方これでいいですかね)が出てなんかおかしいな?と思ったところで黒いレックウザにメガシンカ
(はぐれブログ NewStage,"ブレス オブ ファイア V ドラゴンクォーター", 2020.10.2.AM4:52確認)
「小レック(呼び方これでいいですかね)」の辺りに時代を感じますね。
今なら「小ズガ」という呼び方に疑問を持つ人はかなり少ないはず。
このレックウザ達こそ、普通のポケモンと特別なポケモンの呼び分けの歴史の生き証人と言えるでしょう。
ポケモンGX:ズガドーンとズガドーンGXの例
そして2016年発売の「サン&ムーン」シリーズ。
今この「ズガドーン(SM10)」と「ズガドーンGX(SM8)」が一世を風靡しています。
「イベルタル」のケースと同じく、「ズガドーンGX」が先発でリリースされた後に「ズガドーン」がリリースされたパターンです。
「ズガドーンGX」は「ズガアーゴ」のアーキタイプで活躍した後、「小ズガ」のサブアタッカーとなりました。
「ズガドーン」の方が「小ズガ」、「ズガドーンGX」の方が「ズガ」と呼ばれるのがメジャーかと思います。
しかしながら、マイナーな呼称にまで目を向けると、それまでの文化の蓄積もあってか実際かなりのバリエーションがあります。
以前、「ズガドーン」と「ズガドーンGX」の呼称についてアンケートを取ったことがあるので、そちらを見ていきましょう。
【アンケートのお願い】
— なにものか (@nanimonoka) 2020年3月5日
「ズガドーンGX」と「ズガドーン」、この2枚を略称で呼び分ける際、それぞれどのように呼んでいるか教えてください。#ポケカ言語学 pic.twitter.com/1GPMOIpTUh
ズガドーンの呼称の例
- 小ズガ
- 子ズガ
- ちびズガ
- ブレイザー
- ひのたまサーカス
- こずがちゃん
- 子ドーン
- 小ズガ崇彦
- 小塚
- サーカスのやつ
- こズガ
ズガドーンGXの呼称の例
- ズガ
- GXのズガドーン
- バースト
- バーストGX
- おっきいずがっち
- 大ズガ愛
- ビックリヘッド
- ズガドン
- GXのやつ
- でかズガ
まあ色々ありますね。
その他検索した範囲だと、「ズガドーン」を「通常ズガ」と呼ぶ例、「ズガドーンGX」を「大ズガ」「親ズガ」と呼ぶ例なんかも観測できました。
「ズガ」や「ズガドーン」という呼称が「ズガドーンGX」の方に割り当てられているのと、「小」や「子」といった接頭辞が「ズガドーン」の方に多く使用されているのが印象的です。
分析してみたい気持ちもあるのですが、今回はやめておきます。
まとめ
さて、当初の問題に立ち戻ります。
なぜ「ズガドーン」は「小ズガ」と呼ばれているのか。
そこには先発の「ズガドーンGX」と区別するという目的があり、「イベルタル」が「小イベ」だった頃の習慣が生きているという背景がある。
ざっくり纏めると、こんなところでしょうか。
「イベルタル」の時代に生まれた「小さいイベルタル」という言い回しがやがて短く「小イベ」に。
それが「小ボルケ」に、「小テテフ」に、「小マッシ」に受け継がれて、今に至っている。
そうやって考えてみると、今や聞き慣れたこの「小ズガ」という名前に歴史の重みを感じませんか。
ちなみに、日本語圏の「小ズガ」と同じく、英語圏でも「Baby Blacephalon」という表現が定着しています。
面白いですね。
あとは「マグカルゴ」「マグカルゴGX」が「小カルゴ」「カルゴ」とあまり呼ばれない現象(進化ポケモンだから?)、「カプ・コケコ」「カプ・コケコGX」が「小コケコ」「コケコ」と呼ばれない現象(同一のデッキに採用されにくいから?)等も面白いです。
いやあ面白い。
ポケモンの呼び方一つ取っても、奥が深いです。
そんなの掘り下げてどうする。
知るかよ。
応援よろしくお願いします。
CL2021横浜には出ません。